terakoya edasan history >


寺子屋主 枝村 泰代






どうまとめるのが良いのか、迷っています。寺子屋にいらっしゃる皆さんは
それぞれの悩みや不安を持って来られます。それを他言出来ないことが多く、
公には出来ないからです。だから一般的な内容になってしまうことを
お許しください。



● 大学生と共に




学生の若い瞳に囲まれて共に過ごすは 至福の時ぞ

 日本福祉大学の講師として5年が過ぎました。往復8時間の道程も
 この充実感が支えてくれています。
 

 「娘ある日授業が終わっても一人残って机に向かっている学生がいたので
 「どうしたの?」と声をかけると「奨学金の申し込みです。家からは
 仕送りがないので、後はアルバイトで生活しています。」と言う返事でした。
 「偉いねえ。」と言うと、「家は僕が長男で後2人いますから。」とさわやかな
 笑顔を見せてくれました。彼のようにアルバイトを頑張っても学費が続かず、
 退学していく学生が毎年います。学費の値上げ、奨学金の充実が未来を生きる
 学生たちの大きな励ましになるのです。そんな若者たちを支える社会に
 したいものです。

 今年は2年生とは「Hana’s suitcase」と言う教材を使って「平和」と言う
 テーマで授業をしました。日本語でもポプラ社から「ハンナのかばん」という
 タイトルで出版されているものです。ホロコースト教育資料センターと言う所に
 偶然送られてきたかばんに書いてあった文字を手がかりに持ち主を探す旅に出た
 石岡史子さんがついにその持ち主を捜し当てます。それはアウシュビッツの
 ガス室で13歳の生涯を終えたハンナと言う少女のものでした。
 その家族が生きていないか探すうちカナダにいる兄を探し当て会いに行き、
 少女とその家族、そして当時の人々の生き様を学び取り、平和とは何かを
 考えあうというものです。小先生方式で授業しました。
 3人ぐらいのグループを作り、そのグループが1セクションを責任を持って、
 読み、訳、内容の解説、Q&A,教材の提示等をするという方式です。
 中学生にはやったことがあるのですが、どうなるか内心は心配でしたが、
 さすがは大学生です。毎時間すばらしい授業内容でした。居眠り、ケータイ電話、
 私語などは一切なく和やかで真剣な雰囲気は私のほうが感動してしまいました。


:::: 学生のコメントより ::::::::::::::::::::::::::::::::::::::

 「最初の頃より授業の進行がスムーズになり、全く違和感がないし、
 自分の意見をしっかり持っていて、それを皆の前で発表できるようになってきて、
 一人一人が確実にレベルアップしていると感じた。こう言う授業を今までに
 うけたことがなかったので、良い経験になった。」(M)

 石岡さんとハンナの兄が出演しているビデオを見る、私の戦争体験を要望により
 話す、チャップリンの「独裁者」と言う映画を見る、石岡さんを大学に招き
 講演をしてもらう、石岡さんとハンナの兄にe-mailを学生一人一人が送る、
 毎時間授業感想を書いてもらい、次の授業にそれを教科通信として渡す、
 それらの通信と一人一人の学生の「この1年間の授業で平和について学んだ事」
 と言うレポートを1冊にとじこみ、最後の授業で学生たちに渡すなどの
 こともしました。




●小学生から20代まで

悩む子ら ただ聞くだけの我なれど 帰る足取りスキップのごとし


 小学5年生、6年生、中学生、高校生、20代の大人まで、年齢幅のある方々が、
 
定期的には10人、5日間に見えています。1対1での学習や相談ですので
 
特に感じるのかもしれませんが、年齢や学年による特徴や違いを感じます。
 
小学校5年生には5年生らしい鋭さとかわいらしさがあります。
 
中学生としての人間関係の難しさも深刻です。高校生としての知性にはやはり
 
高校生らしいものがあります。20代の人が今の社会の中で生きる大変さは
 
並大抵ではありません。それらときちんと向き合っていく事が出来る私で
 
居られるよう自分を充実させなくてはなりません。リストラ、
 
本人や親のうつ病、離婚、借金、入試問題などこんな小さな寺子屋の窓からでも
 
沢山見えてきますから。



●本音を言う時

いちばん言いにくいことで、一番言いたかったことや
相談したいことが言えると人は強くなれると思った1年でした。


 
Aさんは中学を卒業して5年後に言いました。言いたくて仕方がなかったけれど
 
相談できなかったと堰を切ったように話し始めました。顔を真っ赤にして。
 
「そうなの、そうだったの。」と私はうなずくのみでした。自分や周りの人を
 
客観視出来るようになったAさんに悩みを乗り越えた力強さを感じました。

 
Bさんは16年後でした。突然電話がかかってきました。それから何度か会って
 
話をしましたが、1番言いにくいことを口にした時「もうしばらく会わなくて
 
いいよ。自分の幅を広げるよ。」と言いました。「それは良かった。又いつでも
 
お出でよ。」と別れました。今を生きる日本の普通の若者たちは不安、恐れ、
 
苛立ちをためながらも「どう生きていったらよいのか」と言う生き方への問いを
 
発し続けているのです。そのための教養や学習の場を求めているのです。
 
そしてそれを受け止めてくれる大人や安心して付き合える友人が必要なのです。
 
それが学校や教師の役目でもあると思います。



●湯豆腐‐肌の温もり

 
就職して1年経った教え子(この表現は適切でないと言う考えもありますが)
 
からゆっくり話したいと言う電話がありました。そのついでに「先生今でも
 
湯豆腐作ってる?」と言うのです。「何のこと?」と言うと「先生は
 
面接していて夕食の時間になると湯豆腐作って戻ってくるから。待っててって
 
よく言ったじゃん。」と言うのです。よく覚えているものです。母の介護と
 
現職の2本立ての生活を生徒たちはそんな一言で記憶してくれたのです。
 
今までの私の生き方の上に今の私があり、寺子屋があるのだということをしみじみ
 
と実感した一言でした。そして人と人の肌の温もり、つながりの温かさの値打ちを
 
思いました。又目に見えないけれど、こう言う人のつながりが人生の足跡かも
 
知れません。元気は活動する事によって生まれるものです。
 
寺子屋生は私の元気の源です。



●不登校はドライバーの休息

 
森川紘一氏はそう著書の中で書いています。当寺子屋にも何人かの不登校の
 
生徒がきていますし卒業もしていきました。4年間ここに来ている生徒もいます。
 
どの生徒も良く笑い、良く話し、良く学習します。現職の時にも何人かの不登校の
 
生徒たちを担任しました。これからも不登校の生徒が無くなることはないと
 
思いますが、その原因探しをするのは無意味だと思います。その子どもを囲む
 
家庭、地域、学校によって実に多様な要因があるからです。ある父親が
 
「学校に行かなくても、学力だけはしっかりつけるようにした。」と言いました。
 
いざ再登校しようとした時、学力がネックになる場合が多いのでそれは大切な
 
ポイントになると思います。又その学力をつける為に私の寺子屋に来ている
 
不登校の生徒もいます。小、中、高と不登校だった寺子屋生が「集団の中で
 
学習したり、生活したりする体験が無いことが負い目になっている。」と
 
言いました。どこかでその思いを満たす場を作る事が、自分への自信になり、
 
大きな成長が出来るバネになるのではないかと思います。



●学校の持つエネルギー

 
不登校でない生徒も来ていますが、その生徒たちの話す学校生活は大変多忙では
 
ありますが、様々に考えられ工夫された行事が組まれています。子どもの心を
 
揺さぶる授業をされている教師も沢山います。ここに来ている子どもが
 
「―きつねの窓―を今日やったけど、“きつねはなぜ鉄砲をほしがったか”
 
をみんなで話し合ったよ。みんなの意見を聞いてそういう考えもあるんだと
 
思ったよ。自分の考え方が深くなった。」と話してくれました。みんなで学ぶ、
 
磨き合うことがちゃんと出来ているクラスなのです。今を生きる子どもと
 
歩みながら、彼らの成長を真に支える教育実践や学習指導をしている教師たちを
 
感じ、大変嬉しく、力強く思います。そんな教師たちの力と父母住民による
 
子育ての力がひとつになる事によって、子どもを全面発達させる教育は
 
可能になると明るい展望を持っています。 













 
個人的事情で寺子屋を急に休みにせざるを得なくなり、その事を連絡したの
 
ですが、いなかったので「留守電」に「お休みにしてごめんね。1週間後に
 
会おうね。それまで頑張ってね。」と入れました。次週その生徒が来て、
 
「休みになってとっても寂しかったよ。でも先生の留守電の声を何度も再生させて
 
聞いて頑張ったよ。」と言いました。今年の年賀状に「さりげない言い方なのに、
 
しっかり相手の心をつかんでいる関わり方―凄いです」と書いてくれた
 
お母さんがいます。そんな方が居られる限り、子供たちにとっても大人たちに
 
とっても大変生きにくい世の中ですが、その中で大海の一滴にでもなればと、
 
今年も寺子屋を続けようと思います。 





・希望をつむぐ学力  久富善之、田中孝彦著  明石書店

・子ども力をはぐくむ  森川紘一著  クリエイツかもがわ








copyright (C) 2002-2009 All rights reserved terakoya edasan